「男は外で働き、女は家を守る」
そんな考え方が当たり前だった一昔前の日本ですが、女性の社会進出や生き方の多様化が進み、兼業主婦は当たり前、もはや専業主夫という言葉まで生まれるようになりました。
しかし、いくら多様化が進んでいるとはいえ、未だ女性よりも男性の方が育児休暇を取得しづらかったり、専業主夫を珍しい目で見る世間の風潮は否定できません。
では、実際に専業主夫の皆さんはどのように感じているのでしょうか。
今回は、専業主夫の男性5名に、専業主夫になった経緯とメリット・デメリットについて語っていただきました。
妻が仕事に生き甲斐を感じていた
ー妻の代わりに自分が家庭を守ることを決めた、堀田さんの場合ー
初めにお話を伺ったのは、堀田さん(仮)・36歳。
大学卒業後、大手車企業営業部に就職し、営業先で出会った奥様とめでたく結婚したのだそう。
当時はバリバリ仕事をしていたようですが、どうして専業主夫になったのでしょうか。
「もともと、子供が生まれると同時に妻が仕事を辞め、専業主婦になるという約束だったのですが、だんだん妻の仕事軌道に乗り始め、仕事に生きがいを感じるようになってきました。
どうしても辞めたくないと熱心に私に想いを伝えてきたため、その誠意を受け止め、私が専業主夫になることにしたんです。」
ー“共働き”という選択肢もあったと思うのですが、どうして専業主夫になられたのでしょうか。
「やはり、子供や家庭のことを考えるとどちらかが責任を持って家を守る方が良いと考えていたので。」
ー専業主夫になってみて、メリットだと感じることはありますか?
「一般的に、ママ友との付き合いや人間関係が大変だという話をよく耳にしますが、私の場合は男性ということで、近所のママさんたちととても良い距離感を保ちながら無理なく付き合うことができています。
また、子供たちとたくさん触れ合い、ゆっくりと成長を見守りながら暮らせることは、この上ない幸せですね。」
ー反対に、デメリットだと感じることは?
「家事や育児に追われて社会との繋がりがなくなるので、自分の存在意義を見出せなくなる時があります。
ただ、今のところ私にとってはメリットの部分の方が大きいので、そこまで深刻に悩んではいません。」
共働きで家庭を築くことに限界を感じた
ー愛する妻に尽くす生活に幸せを感じる、真島さんの場合ー
次にお話を伺ったのは、専業主夫歴3年という真島さん(仮)・29歳。
「医療系の大学を卒業後、高齢者福祉施設に勤務し、専業主夫となりました。
初めは妻と共働きで暮らしていたのですが、2人とも疲れて帰り、家事を分担する生活に予想以上に消耗してしまったんです…。
回覧板を回すのが遅れたり、町内会の活動にも全く参加できなかったりと、近所の方々との人間関係も悪くなっていきました…。」
ー“どちらかが家にいる必要がある”と感じたわけですね。
どうして真島さんが主夫になろうと思ったんですか?
「家庭の事情で、私は子供の頃からほとんど1人で家事をして育ちました。
そして、家事をするのは嫌いではなく、むしろ好きでした。
また、私にとって会社とはお金を稼ぐだけの場だったので、会社員を辞めることに対して未練もなかったんです。
妻が外でお金を稼ぎ、私が家庭の仕事を全うする。そうすれば、お互いにより幸せな生活ができると考えました。」
ー奥様とご自身の適性を考えた時に、お互いにとってベストな役割分担をしたわけですね。
専業主夫のメリットはありますか?
「毎日1人で過ごす時間がとても長いのですが、私は1人が好きなので、社会の喧騒を離れた暮らしが性に合っています。
愛する妻に尽くし、自分の城でもある自宅を清潔に保つために時間を費やせる日々が、とても幸せですね。」
ー専業主夫がとても向いているようですが、デメリットだと感じることはありますか?
「ごく稀に、主に年配の方に“女を会社に行かせて男が家にいるなんて”という意見をいただきます。
単に私が“会社をサボっている”“怠惰なを暮らしをしている”という見方をされるのです。私の両親もそういう考え方なので、理解を得るまでは大変でした…。
また、自由に使えるお金が無くなるというのも、会社員を経験した後だとなかなか辛いですね…。」
ーどうしても、“男は外で働くもの”という固定概念を持った方はいますよね…。
もしこれから専業主夫になろうか考えている男性がいるとしたら、アドバイスはありますか?
「会社員だった人が専業主夫になるということは、それまで毎月あった収入がなくなるということです。
それがどういうことなのか、事前にしっかりと考えた方が良いと思います。
私の場合、自由に使えるお金が0円という生活に耐えられず、家事の隙間時間にパソコンでちょっとした在宅ワークを始めました。これが意外にも楽しく、ある程度の小遣いが確保できるので、とても良いです。奥さんと相談して、本業の主夫業に差し支えない程度に、自分のお小遣いを稼ぐ道を確保できると良いのではないでしょうか。」
妻への感謝の気持ちを、正直に伝えられるようになった
ー定年退職後に主夫業を始めた、小川さんの場合ー
今回最年長の小川さん(仮)・62歳は、定年退職後に専業主夫になったそう。
「36年勤め上げた会社を定年になり、勤務形態を変え、契約社員として働き続けていたのですが、自分が求めた仕事内容と現実の乖離に耐えられずに半年で辞め、専業主夫となりました。
女房は医療関係の仕事をしています。」
ー会社員としての人生を全うした後の主夫業…これまでの生活と180度変わったのではないでしょうか。
「はい。
もともと仕事人間で家にほとんどいなかったので、定年後ずっと家にいる私を、女房の方が受け入れられないようでした。
さらに、定年後も契約社員を続ける予定だったのに、私の方から“専業主夫になる”と宣言したものですから、夫婦関係が非常にギクシャクしましたね。
あれから1年半…未だ上手くいっているとは言い切れませんが、最近徐々に良い関係になってきた気はします。私自身、この生活を成功に導けるような、自身が湧いてきています。」
ー奥様からの十分な理解を得られない状況での専業主夫…なかなか大変そうですが、メリットだと感じることはありますか?
「女房が長年にわたり炊事・洗濯・掃除の3点セットを無難にこなしがら私を支え続けてくれたことを、身を以て実感し、女房への感謝の気持ちを正直に表せるようになりました。
まだまだ完璧とは言えませんが、なんとか家事をこなせるようになってきたので、主婦業の負担が軽減した女房が最近は少し嬉しそうです。
また、この歳になってからの専業主夫なので、周りの目もあまり気になりません。家事をすることで生活にメリハリがつき、空いた時間に趣味を満喫することもできてバランスが良いですね。」
ー自分が家事を行うことで、奥様の大変さを身を以て感じる…素敵なお話ですね。
新しい生活をエンジョイしてらっしゃるようですが、専業主夫のデメリットはありますか?
「会社員時代に単身赴任をしていたこともあり、なんの問題もなく主夫に転じられると思っていました。
しかし、女房から“炊事の材料費が高すぎる・洗濯の時に水を使いすぎる・掃除が大雑把すぎる”など様々な指摘を受けまして…。
1円安い商品を買う為に遠くのスーパーまで行くなんて私には出来ませんし、洗濯は注水すすぎ以外考えられないです。
所詮男のやる作業です。経費を気にかけず、家計に優しくないのが、家庭にとってはデメリットかも知れません。
私以外の主夫さんは上手くやられているのかも知れませんが…。」
ー奥様は主婦業のプロですから、なかなか大変ですよね…。
これから専業主夫になる方へ、アドバイスはありますか?
「専業主夫になっても財布は女房に任せるのが良いと思います。うちの場合、夫婦共通の財布を作り生活費はそこから出して使っています。
現在は年金受給者となった私ですが、年金は女房に渡している私の通帳に振り込まれ、そこから小遣いを貰い、私の趣味等の出費はそれで賄うシステムにしています。
“俺が世帯主だ!”という考えを捨てられるので、主夫の立ち位置を無理なく受け入れることができます。」
子供の存在があったから頑張ることができた
ー過労で会社を辞め、専業主夫になった田端さんの場合ー
36歳・田端さん(仮)は、過労で体調を崩したことがきっかけで主夫になったそう。
「大学卒業後、生活用品全般を扱う総合商社に入社し、営業部門やマーケティング部門・企画門などを10年間担当していました。仕事人間だったのですが、それが祟り、過労で体調を崩して休職。
その後、復職を目指しましたが体調に合わせた業務調整が折り合わず、仕方なく退職することになりました。それから療養を兼ねて専業主夫になり、かれこれ4年間主夫業を続けています。
妻は10年以上フルタイムで看護師を勤めており、ある程度収入も確保できたので、妻には仕事に専念してもらっています。」
ー望んだ形での専業主夫ではないようですが、主夫になって良かったと思うことはありますか?
「当時2歳だった娘は保育園に通っていたのですが、私の退職に伴い保育園を退園することになりました。娘がある程度大きくなるまでは、私が家事・育児に専念することにしたんです。
子供の成長を真近で見ることが出来るのはとても幸せですね。体調が悪い中、家事・育児と不慣れなことも多く大変でしたが、乗り越えられたのは娘の存在があったからだと思います。」
ー娘さんにとっても、パパと一緒にいられる時間が増えたのは嬉しかったのではないでしょうか。
「そうだと嬉しいのですが…。
あと、自分自身専業主婦に対して“家でのんびりできて良いな”と甘く見ていたのですが、いざやってみると世の専業主婦の皆さんに頭が上がらないほど大変でした。
それまで働きながら家のこともこなしていてくれた妻の偉大さを知りましたね。」
ー奥様に対しても、これまで以上に感謝の想いが強くなったのですね。
反対に、デメリットだと感じることはありますか?
「一般的なママの場合、昼間はママ会など大人同士でコミュニケーションをとる機会がありますが、男性だとそういった機会が皆無で、日中孤立しやすいのがデメリットだと思います。
また、昼から男性が1人で子供を連れて歩いていると、周囲の目が気になってしまうのも事実ですね。
さらに、以前は職場周辺に住んでいたので、昔の同僚や上司、取引先に会って気まずい思いをすることも何度もありました。
親戚からも疑問の目で見られることがありますが、最近はもう開き直っています。」
ーこれから専業主夫を検討している方へ、アドバイスはありますか?
「“専業主夫”という言葉の認知度は高まってきていますが、社会からするとまだまだ稀有な存在であることは間違いありません。私自身、周りの目の厳しさを痛感しています。
また、社会人から専業主夫になる方は、収入・人間関係を失うことになるので、なかなか勇気がいることでしょう。
さらに、その後再就職を視野に入れているのであれば、専業主夫になることへの不安もあると思います。
もし、今定職についており、共働きという選択肢があるなら、第一にそちらを検討するのをおすすめします。
とはいえ、様々な事情で専業主夫を選ばれる方もいらっしゃいますし、そんな方が増えて専業主夫が認知される社会になってくれれば喜ばしいとも思っています。」
ー確かに“専業主夫”が増えれば、“専業主夫”への世間の理解も自然と深まりますね。
「様々なリスクを踏まえた上で、それでも専業主夫を選択するのであれば、専業主夫への何かしらの意義を見出すことが大切だと思います。
私の場合は“妻の仕事の支え・娘の成長を見守る・家庭のバランスを保つ・自身の療養”の4つでした。このような大義名分があると、周りにどんな目で見られても、自分で自分を認めてあげることができます。」
仕事で妻と比べられることに耐えられなくなった
ー奥様と同じ時期に同じ仕事を始めた羽田さんの場合ー
専業主夫歴5年目だという羽田さん(仮)・38歳は、もともと奥様と同業・同キャリアだったそう。
「私も妻も、ほぼ同じ時期に社会保険労務士になりました。
妻の実家は社会保険労務士事務所で、そこを継ぐという形で働いていたため、最初から多くの顧客を抱えていたのですが、私はゼロからのスタートであったため、顧客も収入もない状態が続きました。
その状況を周囲から比較されることが多く、我慢できなくなり、“妻の仕事のサポートをする”という名目で専業主夫になりました。」
ーそれは辛い状況でしたね…。
“専業主夫になりたくてなった”という訳ではないようですが、実際になってみて良かったと思うことはありますか?
「煩わしい人間関係を気にしなくて良いことですね。
家事は確かに面倒で楽しくはないですが、人間関係で精神を病んでしまうことは全くありません。」
ーデメリットはありますか?
「周囲から冷ややかな目で見られることがあるというのと、妻と喧嘩をした時に専業主夫であることを馬鹿にするような言動が見られることですね。
亭主関白な男性が“誰のおかげで飯が食えると思ってんだ!”と言うのはよく聞く話ですが、男女が逆転しても、そういった言動は女性が大黒柱になった場合も見られるのだということが分かりました。」
ー専業主夫を検討している男性に対して、アドバイスはありますか?
「周囲からどう思われても専業主夫に対して誇りを持てる覚悟がないと、辛いです。
もし、自分自身すらも心のどこかで専業主夫を馬鹿にしているなら、専業主夫になるべきではないと思います。
でなければ、周囲も自分も自分を馬鹿にしているような状況になり、精神を病んでしまうでしょう。
また、“専業主夫になる前にそれなりに仕事を経験したものの、その結果専業主夫という道を選んだ”という方が周囲からの理解が得られやすいので、いきなりなるのではなく社会人経験を積んでからなるのがお勧めです。」
メリットもデメリットもある。大切なのは自分の性格とこれからやりたいことに、専業主夫が合っているかどうか
今回お集まりいただいた皆さんは、もともと専業主夫になる予定はなかったものの、様々な事情で専業主夫になった方たちでした。
そんな皆さんの話をまとめると、以下のように。
<専業主夫のメリット>
・家事・育児の大変さを実感し、奥さんや世の主婦の方々を心から尊敬することができる
・子供の成長を自分の目で見ることができる
・ママ会やママ同士の複雑な人間関係があった場合、程よい距離感を保つことができる
・性に合っていれば、1人の時間が長いこと、家庭を守ることで妻をサポートすることに幸せを感じる
<専業主夫のデメリット>
・社会や周囲の目は厳しい
・自由に使えるお金がなくなる
・自分自身が主夫に対して誇りを持つことができなければ、精神的に辛い
・再就職をする場合は、不安が募る
やはり、周囲の目や社会の厳しさが大きな障害となるようですが、身を以て家事・育児の大変さを知り、心から主婦業へ敬意を払えるようになるということは素晴らしいことです。
主婦業を経験している女性であれば、それらをこなしてくれる夫に対して感謝の気持ちが生まれ、夫婦仲が良くなるでしょう。
しかし、羽田さんのように、奥様からも主夫を馬鹿にする言動を受けるととても辛い状況に陥ってしまいます。
お互いが会社員・主婦業の大変さを経験しており、どちらの役割に対しても敬意を払える関係が理想的でしょう。
今、専業主夫を検討している方は、自分の性格や奥さんの性格、そして今後の人生で一番大切にしたいことをよく考え、ベストな選択をしてください。