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【AV監督から代表取締役社長へ】ソフトオンデマンド新社長、野本ダイトリという男

こんにちは。浜松一郎です。
突然ですが、皆さんはAVは好きですか?私は大好きです。
男性ならみんな好きであろうAV業界の中で、一番有名と言っても過言ではない会社ソフト・オン・デマンド(以下、SOD)。設立から20年、年商約150億円というモンスター企業です。
そんなSODの代表的取締役社長が2016年に変わりました。代表取締役に抜擢されたのは、今回インタビューさせていただいた野本ダイトリ氏。若干36歳、経営の知識はゼロ、キャリアの始まりはAV監督という異色の経歴を持っている方です。

そんなわけで、憧れのSOD本社にやってきた、私浜松一郎。今回は二編に渡ってお送りするため、こちらの前編では、野本ダイトリ氏に社長になった経緯と監督時代のこだわりを。後編ではAV女優さんのことから過去と現在のAV業界の違い、今後のSODについてお聞きしていきます。

「俺の作品には指一本触れさせない」その姿勢で掴んだチャンス

ソフト・オン・デマンド代表的取締役社長・野本ダイトリ氏

− 早速ですが、野本さんは、もともとはAV監督だったんですよね?
「はい。AV監督を目指してSODに入社しました。というのも、なにも考えていなかった浪人時代に、永沢光雄さんの『AV女優』という本をたまたま読んだんですね。そこでAV女優さんの生き様や考え方を知り衝撃を受けて、『将来この人達を応援したい!』と思ったんです」

− 1冊の本がきっかけだったんですね。そのまま入社してすぐ監督になれるものなんですか?
「僕の場合は、少しずつ段階を踏んでいきました。そもそも、僕はかなりの落ちこぼれでして、同期みんな高学歴で非常に優秀だったんですね。なので最初の方は一週間ずっとトイレ掃除させられたり倉庫の釘の本数を何千本も数えさせられたりしていました。うちの教育方針の中に『理不尽を大事にする』っていうこともあって一ヶ月はずっとそんな感じでしたね…。そんな中でなんとかADに残ってそこから這い上がっていった感じです」

− 監督デビューのきっかけは?
「入社2年目にAVOPENという国内最大のアダルトビデオの祭典がありまして、それに出品する作品の社内コンペがあったんですね。無記名で企画を出すんですが、それで運良く通ったんですよ。それが僕の監督デビュー作になる『ガチンコ素人企画!!トイレの落書きに電話したらエロい女とSEXできるのか?!』という作品でした」

− タイトルから中身が非常に想像できる作品ですね!
「まだまだ技術は未熟だったのですがやるからには本物を撮ろうと、ハンディカム1つ持ってトイレ行って…

− それは売れたんですか…?
まっったく売れなかったです。(笑) なんせ、ガチンコ過ぎて、前半約60分は僕とトイレしか映ってないですからね。最後に20分くらいエッチなシーンがあるくらいで…。当時の役員にも『全然抜けないじゃないか!』と怒られて、僕のシーンは5分くらいにカットしろと言われたんです。でも断固として受け入れなかった。『絶対切らない。このままやる』と」

− なぜそこまで頑なに?!
「役員の言うことは、至極真っ当な意見なんですよ。だってAVなのに僕とトイレだけって売れるわけないじゃないですか。でも、僕はこの先品で『監督・野本』という男を世に知らしめたかった。その目標のためには、譲れないしガチンコである必要があったんです。そのまま押し通して出したら、偶然僕の作品をSOD創業者である高橋がなりが見てくれて『このバカは誰だ!』となり、専属ADに抜擢されたんですよ

− なんと!自らのやり方を押し通した結果ですね。
「で、何年かADをやった後に監督になれたんですが、その後は企画を出すも、また役員たちにダメ出しされるんですね。『こんなんじゃダメだ』と。なので『もう誰にも文句を言わせない監督になる』と決めて、毎年目標たてて、自分の演出論をつくって、プロデューサーやって、売れるロジックを作って、レーベルひとつ任せてもらって…」

− チャレンジしまくったわけですね。
「僕は自分の作品には指一本触れさせたくない人間なんです。パッケージ写真も、そこに書く文字も全部です。そのための努力を惜しまなかった。そうしたら、5年目くらいに何出しても売れるようになったんですよ。何出しても売れるもんだから、役員たちも文句を言わなくなりました」

「こんなつまらない会社は3年以内に潰せ」ポツンといたら、社長に抜擢!?


− 努力の賜物ですね…!そこから社長になったのはどんな経緯があったんですか?
「設立20年を迎える直前にまたもや高橋がなりが戻ってきまして、当時の役員を30人近くクビにしたんです。そこでポツンといたら『お前、社長やれよ』と…」

− なぜ、そんなにクビに…?
「会社自体が、売上至上主義になっていたからです。SODはメーカーや制作者・監督を応援するために作ったはずなのに、SODが一番お金を儲ける仕組みになっていた。本来なら、制作者にお金を還元することで制作者が新しいものを作れるわけであって、それでお客様さんがよろこんで、メーカーが儲かって、最後にうちが儲かるというのが健全なんです」

− 普通のAV会社になってしまったら意味がないと。
「はい。それで戻ってきた高橋がなりが、『俺はこんな会社作った覚えはねぇ』と。だから、『監督だったお前が社長やれ。だって、お前は制作者の気持ちわかるだろ?』と」

− 痺れますね…!
「さらに、『俺がここまでボロボロにしたんだから、面白い会社をゼロから作ってみろ。ただし、三年後つまらないまま残ってたらこんな会社潰れて構わないから』と言われたんです」

− 凄いですね…!
「はい。それで今半年経ちました。(2016年12月現在) ただ、僕は経営が全くわからないので契約書とかも詳しい人に聞いてサインしたり、数字もチンプンカンプンです。でも、なにかを決断する時に大切にしているのは、『将来制作者のため、面白い作品のためになるのか』という判断軸。僕も監督時代、SODに対して不満があったことも事実なので」

− いきなり監督から社長になって、今作品を撮りたい願望はないんですか?
「めっちゃあります。SOD立て直せたら、僕はまたイチ監督に戻りたいので社長じゃなくても全然いいです。僕は本質的にものづくりが好きなんですよ。自分が撮る作品は指一本触れさせないと言いましたが、女優さんの衣装選びも、パンツにシミを作るために買ってきたパンツの裏地を切ったりするのも、全部自分でやるので

− 完全にクリエイター気質なんですね
「極論、単体もののAVで言うと、ユーザーさんを女優さんに恋させなきゃいけないんです。じゃないと、絡みもただの絡みになってしまう。それが恋になると『好きな子の絡み』になるんですね。その恋をどこでさせるかというと『オープニングカット』なんです。だから僕はそのワンカットのために、南国に行ったりもするし、『制服が似合う娘』だったら、教室を押さえてエキストラ入れたり、なんでもします」

− オープニングカットでそこまでするんですか!!!
「はい。『これで勝負できる』思うまで粘ります。更に、そのファーストカットをみせるための導入をいかに違和感だして世界観に引きずり込むのかまで考えます。だからこそ、僕自身も女優さんに恋ができないとダメなんです。じゃないと粘れないから」

− もう二度とオープニングカットを飛ばしてみるのはやめます!
「と、監督としての僕は沢山のこだわりがあるんですが…。ただ、今は会社の経営が第一なので、やりたいことは新人監督に任せています。そのために、今SODに色々な制度を作っているんですよ」

自身の監督経験を生かして、SODを改革しようとしている野本ダイトリ氏。では、どのようにして同社を変えようとしているのでしょうか。
インタビューの後編では、過去と現在のAV業界の違いからAV女優さんのこと、そして、今後のSODについてお聞きしていきます。
後編はこちら:「赤字覚悟でAVクリエイターを育てる」新社長・野本ダイトリ氏が目指す、面白いSODとは?